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「うわ〜っ!空、広―い」
ミッドガルの姿がほとんど見えなくなり、ぐるっと一周見渡しても人工的な建造物が見えない。
それまでは汚染された土の影響なのか、雑草しか見られなかったけれど、徐々に植物が増えてきた。
わたしは嬉しくなって、クラウドを振り返った。
「ちょっと、いいかな?」
荷物の中からおもむろに手の平サイズの植物図鑑を取り出すと、クラウドが不思議そうな顔をした。
「なんだ?」
「図鑑」
「植物の?」
「うん。一緒に何て名前の花か、調べよ?」
クラウドは肩をすくめた。
「・・・興味ないな」
わたしは笑ってクラウドの服の裾をひっぱった。
「興味ないの、知ってる。でも、知ることをやめちゃうのは、もったいないよ?」
クラウドは小さくため息をついてから、わたしの横にしゃがみこんだ。
図鑑と花を見ながらはしゃぐわたしを見て、クラウドが言った。
「ミッドガルの外へ出るのは初めてだって言ってたな」
「うん。生まれてからずっと、神羅に監視されてたから」
クラウドの表情が少し曇った。
・・・彼は、やさしい。
「ちょっと前までは、古代種だってこと、あんまり嬉しくなかったけど、
おかげでいいコトもあったから・・・今はそんなに嫌じゃないよ」
「・・・いい事?」
「クラウドとこうして旅に出れた、でしょ?」
クラウドは言葉に詰まって俯いた。
わたしは笑いながら彼の手を掴み、立ち上がった。
「ずっと、監視されることのない自由に、憧れてたの。クラウドが連れ出してくれなかったら、
またあのビルの中で、実験づけの日々を送ってた・・・」
クラウドの片手をとったまま、彼の正面に立った。
彼は居心地悪そうに下を向いてしまった。
わたしは彼の顔を見て言いたくて、覗き込んだ。
「助けてくれて・・・ありがと、クラウド」
目が合ったので笑いかけると、彼は目を泳がせた。
どうやら面と向かってお礼を言われることに、慣れていないようだった。
わたしはそんな彼を見て微笑んだ。
カームへ向かう旅の間、わたしのたわいもない世間話を、クラウドは黙って聞いていた。
彼はあまり返事をしなかったけれど、聞いていないわけではないらしい。
一見無表情だけど、ほんの少しだけ、喜怒哀楽が顔に出る。
よく見てなければ気づかない程の変化だったけれど。
でもそれに気づいてからは、なんだかうれしくて、ひたすら色んな話をした。
夜になり星も出始めたのに、まだカームは見えない。
徐々に木々が増え、より一層辺りを暗くしていた。
気温も随分下がってきたし、さすがに疲れた。
「ね、カームって、あとどれくらいかな?」
地図を広げ、方位磁石を見ていたクラウドが少しため息をついた。
「まだ半分くらいしか来てないな・・・」
「は〜・・・っ。図鑑、見たりしたからかな。ごめんね?」
「気にするな」
言い方はそっけないけれど、ほんの少しだけ微笑んでくれた。
怒っていないのがわかってホッとする。
彼は辺りを見渡し、大きな岩が点在している場所を指差した。
「これ以上進むのは危険だ。あの辺りでテントを張ろう」
クラウドは手際よくテントを1つ張り、わたしに中に入るよう促した。
「クラウドは?」
「見張りをする」
彼はテントから少し離れた場所で火を熾し、座り込んだ。
わたしは首をかしげた。
「このテントって、モンスター近寄れないから、見張りいらないよね?」
「ああ。だから安心して寝ていい」
「じゃ、クラウドも、中で休んだら?」
彼は眉間にしわを寄せて赤くなり、消え入るような声で呟いた。
「・・・それは・・・その・・・まずいだろ・・・」
「え?」
「いいから寝ろ」
ぐいっとテントの中に押し込まれてしまった。
テントから顔だけだして、クラウドに向かって言った。
「ちょ、ちょっと、待って。クラウド、寝ないの?」
「ああ。俺はいい」
「え〜、クラウドも休んでくれなきゃ、気になっちゃうよ」
「俺は平気だから、エアリスは寝てくれ」
「そんなわけにいかないよ。クラウドのこと、心配だもん!」
「・・・」
「夜は外、寒いよ?風邪引いちゃうよ?」
「ソルジャーはめったに病気にならない。俺のことは気にしなくていいから・・・」
「夜行性のモンスター、いっぱい、いーーっぱい出てくるかもよー?」
「・・・」
「クラウドに何かあったら、わたし一人じゃ、カームにもミッドガルにも行かれなーい!」
「・・・・・・」
「ね〜、クラウド〜!一緒に寝よーー!ねー、ね〜!ねーってば〜!」
クラウドは大きなため息をつき、肩をすくめて首を振った。
「・・・わかったよ」
仏頂面のクラウドが中に入ってきて、隅っこに寝転がり、頭の下で腕を組んで、目をつぶった。
わたしは安心して、小さくため息をつき、微笑んだ。
よかった。ここのところ、彼はろくに寝ていない。
ゆっくり休んで欲しかった。
だってわたしのせいだもの。
神羅ビルに乗り込んだりしなければ、彼はミッドガルで、今まで通り生活してたはずだから・・・。
クラウドは何度も寝返りをうっている。
「眠れないの?」
「ああ・・・いや・・・」
「毛布、わたしが独り占めしてるからかな?一緒に使う?」
「ち、ちがっ・・・そんなんじゃないから、毛布は使ってていい」
落ち着かなそうなクラウドが心配になってしまった。
ちゃんと寝ないと、明日にひびいちゃう。
私はがばっと起き上がり、手をついてクラウドを覗き込んだ。
「そーだ!ね、子守唄、歌ってあげる。セトラの歌なの。めずらしいでしょ?」
身体を少し起こして、クラウドが真っ赤になって大きな声を上げた。
「はぁ!?子守唄!?いいって!子供じゃあるまいし・・・!」
でもそんなこと構わずに、わたしはイファルナお母さんがよく歌ってくれた子守唄を歌いだした。
それは古代種の言葉の子守唄で、メロディが美しく心地よいので、お気に入りの歌だった。
クラウドは子供扱いされたと思ったのか、ちょっとふてくされていたみたい。
ムッとしながら横になり、天井を見上げていた。
でもそのうち、目を細めるようにしてわたしを見て、じっと歌を聞いていた。
やがて目を閉じ、しばらくすると、小さな寝息をたて始めた。
「・・・眠れた、かな」
たて続けに色々な事が起こり、クラウドは疲れていたんだと思う。
ぐっすり眠っているみたいだ。
歌うのをやめて、彼をじっと見つめた。
言ったらきっと、怒るだろうけど・・・寝顔、かわいい。
目が離せなくなって見つめていると、クラウドが急に苦しそうな顔をしだした。
うなされているみたいだ。
「・・・クラウド?」
問いかけた瞬間、わたしは思わず動きを止めた。
「・・・!?」
びっくりした。
彼の目尻から涙が流れ落ちた。
無意識に泣いてる?
寝顔はいつもより何歳も幼く見え、弱々しい。
不敵でクールな彼の面影は、どこにもない。
起きてる時は彼に守られてばかりだけど、
眠ってる彼は、わたしが守らなければいけない気がしてくる。
・・・辛そう。どうしよう?
自然に彼に引き寄せられ、そっと額にキスした。
「だいじょぶ、ここにいるから。安心して・・・?」
髪を撫でながら必死に呟く。
「クラウド・・・ずっとそばにいるよ?だから、だいじょぶ、ね?」
「・・・ん・・・」
彼は一瞬身じろぎし、空を掴むような仕草をみせた。
わたしは慌てて彼の手をとり、すぐ近くに寄り添うように横になった。
なんだかクラウドのお母さんになった気分。
彼の髪を撫で続けていると、やがて彼は穏やかな顔をして寝息を立てはじめた。
わたしはホッとしたのと同時に、胸が締め付けられるような気持ちになった。
クラウド、どうしてうなされたんだろう?
彼は何か重いものを抱えているのだろうか。
わたしに何かできること、あるのかな。
彼の力になりたい。
彼が眠りにつく時は、なるべくそばにいてあげたいと思った。
悪い夢を見なくてすむように。
心から安らげるように。
彼の寝顔を見ながら、そっと呟いた。
「クラウド・・・いい夢、みてね」
翌朝、ふと目が覚めると、クラウドが上半身を起こし、こちらを見下ろしていた。
わたしがぴったりと寄り添って寝ていたせいだろうか?
真っ赤な顔をして、わけがわからず驚き、硬直している。
「よく眠れた?」
目をこすりながら問いかけると、彼は小さな声で呟いた。
「朝から・・・心臓に悪い」
思わず吹きだした。
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