anxiety
桃翔さま



宿屋でふと目が覚めた。時計を見ると、まだ明け方の4時。
夜明けまで1時間はありそうだ。
神羅屋敷の地下で具合が悪くなり、昨晩はだいぶ早く寝てしまった。
そのせいか、すっかり目がさえてしまって、とても眠れそうにない。
同じ部屋で寝ているバレットやヴィンセントを起こさないよう、そっと起き上がった。

宿屋を出るとまだ星が出ていた。
久しぶりに故郷の星空を眺める。
最後に見たのは、ティファを呼び出したあの時か・・・。
俺は人気の無い村をゆっくり歩き出した。

給水塔の近くまで来て、人の気配を感じた。 こんな時間に・・・?
ぐるっと反対側に周ってみて驚いた。
「エアリス!?」
塔の端に腰掛け、星空を眺めていたのはエアリスだった。
彼女もびっくりしたようだった。
「クラウド?どうしたの?こんな時間に・・・」
「こっちのセリフだ!危ないだろう、1人で出歩いて!」
慌ててそばまでいくと、こっちの心配をよそに、エアリスはのんきに笑っている。
「あ、元気そう。良かった〜」
その笑顔を見たら怒る気が失せ、ため息をついて隣に座り込んだ。

「いつ頃からいたんだ?まだ夜中だぞ?」
彼女はにこにこ笑っている。
「さっき。眠れなくなっちゃって、外見たら、星きれいだったから。」
何事もなくて本当に良かった思うと、つい深いため息をついてしまう。
「心配性だなあ。だいじょぶだよ?危険なこと、慣れてるし。」
「だめだ。今度からは、夜中に1人で出歩くな。」
全く、人の気も知らないで・・・。
「うん、わかった。気をつけるね。」
そう言った後、彼女は楽しそうに笑った。
「クラウド、お父さんみたい」
俺がぐっと言葉に詰まると、また彼女が笑った。


「ね、ヴィンセントのこと、どう思った?」
彼女の質問はいつも突然だ。
「どうって・・・何が?」
エアリスは両膝を立てて、そこに顎を乗せ、少し遠くを見ていた。
「『大事な人を守れなかった。そばで見ていることしかできなかった。それが私の罪だ。』って言ってたでしょ?」
そういえばそんなことを言っていた。
「だから棺おけの中で、悪い夢見ながら、ずーっと寝てたって。
それが自分に与えられた罰だって・・・・・・どう思う?」
俺は考え込んだ。
目の前で大切な人に何かあった時に、見ていることしかできなかったら・・・
「ヴィンセントの気持ちは・・・よくわかる」
俺も多分、そんな自分が許せない。
自分で自分に罰を与えたくなる気持ちは、よく理解できた。
「・・・やっぱり」
エアリスが少し悲しそうに笑った。
「クラウド、そう言うんじゃないかって・・・思った」

俺は黙っていた。すると彼女が俺の腕にそっと触れた。
目が合うと、いつもとは少し違う、真剣な表情をしていた。
「例えば、その相手がわたしだったら・・・罰なんて、背負って欲しくないな。
ヴィンセントの愛し方も、すごくステキだと思うし、それだけ深い愛情だったんだと思うけど・・・
彼みたいに、自分を責めないで欲しい。幸せに、前向きに、生きて欲しいよ。」
俺は首を振った。
「・・・自分だけ幸せになんてなれない。」
エアリスは泣きそうな顔をした。
「そんなの、ダメ。わたしなら、わたしの分まで、幸せになって欲しい」
「無理だ」
「ずっと自分を、責め続けるの?前向きに生きてくれることが・・・」
「・・・無理だよ」
「もう・・・」
ちょっとため息をついて、彼女は俯いた。

「じゃ、わたしの大切な人たちを、わたしの代わりに守って欲しい。幸せにしてあげて欲しい。」
覗き込むように微笑んだ。
「それが償い。どう?これなら、いい?」
俺は返事ができなかった。
例え話なのに、いいようのない不安が溢れ出す。
もし目の前でエアリスに何かがあった時に、何もできなかったら・・・
・・・・・・俺はその現実に耐えられるだろうか・・・?

エアリスがくすくす笑い出した。
「やーねぇ。例えば、の話よ?だいじょーぶ。わたし、こう見えても逃げるの得意だし、無茶なこと、しないもん。」
彼女は俺の腕に、自分の腕を絡めた。
「みんなも、一緒だし。だから、心配しないで。」
彼女の笑顔を見ていると、不安が少しずつ薄れていく・・・。
「安心して?ね?」

ふと周りが明るくなった。
夜明けだ。
地平線からいくつもの光の筋が差し込み、彼女の美しい横顔を照らし出す。
・・・神々しいとさえ思う。
この美しい人を、絶対に失いたくない。
失うわけにはいかない。
どんなことが起きようとも、必ず彼女は護ろう。
自分の命にかえても。

目を離すことができなくて、俺はいつまでも、彼女を見つめていた。