vow
桃翔さま


コスタ・デル・ソル――
特有の気候と街並みの雰囲気のせいか、仲間達はすっかりリゾート気分だ。
エアリスとティファは、朝早くから海水浴に出掛け、
バレットも理由はわからないがご機嫌で、宿屋の一室に篭っている。
ナナキは暑さに弱いらしく、風通しの良い軒下を見つけのんびりしている。

俺はそんな皆の様子を見て、先を急がせるのを諦めた。
昨日の夜中についたので、今日1日くらいゆっくりしてもいいだろう。
たまには、息抜きも悪くない。
さすがに海で泳ぐ気にはなれず、宿屋のベッドに寝転がった。
目をつぶると外から子供達のはしゃぐ声が聞こえる。
こうしていると、セフィロスを追う旅のことを忘れてしまいそうだ。
久しぶりにゆったりした気分になり、俺はうたた寝してしまった。

ふと物音がして目が覚めると、エアリスが隣のベッドに腰掛けていた。
窓の外をどこか上の空で眺めている。
俺が起き上がると、彼女が振り返った。
「あ、起こしちゃった?」
「いや、起きたんだ。もう午後か。」
「うん。気持ちよさそうに、寝てたね。寝顔、可愛かった。」
エアリスがくすくす笑った。俺は恥ずかしくなって眉間にしわを寄せた。
「海水浴は、もういいのか?」
「だってクラウド、白い肌の方が、好きなんでしょ?焼けたら、やだもん。」
「なっ・・・」
冗談なのか、本気なのか、彼女の言葉は心臓に悪い。

照れ隠しに話題を変えた。
「・・・他のやつらは?」
「ティファは知り合いと会ったらしくて、お家にお呼ばれしてる。夕飯も食べてくるって。」
「バレットは?」
「バーで飲んでる。街の人と仲良くなって、楽しそうだったよ。ナナキは子供達に気に入られちゃって、相手してる。」
「そうか」
「うん」
エアリスがぼんやりしている。そういえば、俺が起きた時も、物思いにふけっていた。
「・・・エアリス、どうかしたのか?」
彼女はちょっと驚いて、こちらを見た。
「どうして?」
「いや・・・別に・・・」
彼女がじっとこちらを見ている。翡翠色の瞳で心の内を見透かされそうだ。

やがて彼女がぽつりと聞いた。
「ね、クラウド・・・わたしのこと、どう思ってる?」
心臓がドキンとした。
彼女に対してどう思っているか、なんて、一言では言い表せない。
彼女は何て答えて欲しいのだろう。
どんな答えを求めている?
色々な想いが頭を駆け巡り、俺は情けないことに動揺してしまった。
どう答えていいかわからず・・・
「・・・わからないよ」
言った瞬間、しまった、と思った。
こんなことを言いたいんじゃないのに。

エアリスが一瞬顔をこわばらせた。
俺が強く後悔していると、エアリスは微笑んだ。
しかしその笑顔は、いつもよりもどこか影があった。
「そうだよねー。わたしも自分のこと、よくわからないもん。クラウド、変なこと聞いて、ごめんね?」
「あ・・・いや・・・」
ちゃんと彼女に、自分の思ってることを伝えなければいけない、と思えば思う程、気持ちが焦る。
「わたし、どのへんが古代種、なんだろ。古代種って、皆とどこが違うのかな。みんなと違うとこなんて、一つもないつもりなのに。
・・・セフィロス、古代種なんだよね?わたしと同じとこって、どのへん?わたしも・・・あんな風に・・・・・・。」
彼女がはっとして、少し慌てた。
「なーんて、ね。いくら考えても、答え、でないんだけどね。いつか、色んなこと、わかるといいな。」
彼女の笑顔が痛々しい。
「・・・ちょっと、お散歩行ってくる。外、気持ちよさそうだし。」
逃げるように、足早に彼女が出て行った。

俺は動けなかった。
きっと傷つけた。
あんな彼女は初めて見た。
いつも前向きで、誰かが悩んでいると元気の出る言葉をかける彼女。
誰よりも過酷な境遇だというのに、そんなところは微塵も見せない。
その彼女が、あんな風に物思いにふけって、自分の存在について悩んでいた。
それなのに、俺は・・・何て言った?
彼女の欲しかった答えは、あんな言葉じゃないだろうに。
俺はガタッと立ち上がり、急いで彼女を追いかけた。


あちこち探し回り、ようやく見つけた彼女は、店と店の間の細い路地の先の、
誰も来ないような小さな空き地に、隠れるようにいた。
そこに座って、ぼんやり海を眺めている。
物音に気づき、エアリスが振り返った。とても驚いているようだった。
「びっくり・・・よくわかったね、ここ。」
俺は走り回ったせいで、息を切らし、汗だくだった。
「・・・探した」
俺の様子を見て、彼女は全て悟ったようだった。
いつもの花のような笑顔を見せてくれた。

彼女が許してくれたのはわかったけれど、やはりちゃんと思っていることを伝えたかった。
あまりうまくは言えないだろうが・・・
俺はエアリスの隣に腰掛けた。
彼女がこちらを見て言った。
「ごめんね、悩ませちゃった?」
こんな時でも、相手を思いやるんだな。
少しでもそのお返しがしたい。

「・・・・・・古代種かどうかなんて、俺には関係ない。エアリスは、エアリスだ。・・・俺の、大事な・・・」
大事な人だ、と言おうと思った。でもこれでは告白だ。
「・・・大事な仲間だ」
気恥ずかしいのもあって、しばらくエアリスの顔を見られなかった。
彼女も黙っていた。
少し気になって、そっとエアリスを見てびっくりした。
彼女は涙ぐんでいた。泣き顔を見たのは初めてだった。
エアリスの悩みが、どれほど深いものだったのかを痛感した。
彼女は少し目元を隠し、笑って言った。
「ありがと・・・クラウド。」
その笑顔がとても綺麗で、胸が熱くなって目が離せない。
いつもならきっとできないのに、気づいたらエアリスの肩を抱いていた。
伝えたいことは山ほどあるのに、口にすることはできなかった。
でも心の中で、俺はひそかに神に誓った。
この先、どんなことがあっても、絶対にエアリスを護っていくと。