「エアリスはそっちだな」
 自分の泊まる部屋の前に立ち、クラウドは隣の扉を視線で示した。
 ここは別ルートで来た仲間達と落ち合う予定の宿。
 クラウド・エアリス・バレットのパーティは最後に宿に着いたため、隣リの部屋には既にティファとユフィがいる筈だ。
「うん。ね、夕ご飯どうする?」
「そうだな、適当に――」
 クラウドが言いかけた時、エアリスの開けた扉の奥で何かの破裂する音がした。
 彼は咄嗟にエアリスを庇い、彼女の前に出る。
 しかし、彼を迎えたのは危険な敵などではなく……

「――あれ、クラウド?」
「な、なんでエアリスじゃないのさ!?」
 目を丸くしたティファと、少し怒ったようなユフィ。
 そして、頭上から降ってきた細長い紙テープだった。
「なんでって、変な音がしたから…」
「クラッカーよ、それ。ほら」
 ティファが、手にした小さな三角錐をクラウドに見せる。
 確かに、彼の肩に乗った紙テープも、仄かに立ち上る火薬の匂いも、パーティ用のクラッカーのものだ。 「  あーあ。せっかくエアリスを驚かそうと思ったのに」
「わたしを? なんで?」
 クラウドの後ろで、エアリスが目を瞬かせる。
 ティファとユフィはいたずらっぽく顔を見合わせると、左右に大きく一歩避け、部屋の中央のテーブルを彼女の視界に入れた。

「……ケーキ?」
「「誕生日おめでとう、エアリス!」」
 声を揃える二人に、エアリスは目を丸くした。
「え、え? 二人とも、覚えててくれたの?」
「当たり前でしょ」
「このケーキさ、宿のおばさんにキッチン借りて、アタシとティファで作ったんだ」
 まぁほとんどティファなんだけど、と続けてユフィが笑い、ティファも満足げな笑みを見せた。
「それだけじゃないのよ。このクラッカーはケット・シーが材料を手に入れてシドが作ったし、プレゼントはナナキとヴィンセントが今準備中なの」
「おいおい、俺とクラウドはのけ者かよ?」
 隣の部屋の前に立つバレットが、大げさに肩を竦める。
「ごめんね。PHSで知らせたらエアリスに判っちゃうかと思って」
「…しょうがねぇな。――じゃあ俺は、夕メシ用に一番美味い店を探してきてやるぜ」
 そう言い残し、バレットは大きな靴音を立てながら宿を出ていった。
 ティファはケーキを切り分けるナイフと取り皿を借りるため下へ行き、ユフィはクラッカーの追加を要請するためシドの部屋へ行く。

 そうして、その場にはクラウドとエアリスが残された。
「――悪い」
 ボソリと小さく、クラウドが呟く。
 エアリスは不思議そうに彼を見た。
「何のこと?」
「誕生日なんて忘れてて……何も用意してない」
「うん、クラウドはそうだろうな〜って、思ってた」  楽しげにエアリスが数回頷く。
 クラウドはもう一度、さっきよりもすまなそうに言った。
「……悪い」
「ふふ、冗談。でも、クラウドにはもうプレゼント、もらってるから」
 その言葉に、クラウドは怪訝な表情で今日一日を思い返した。

 朝はテントで目覚め、夕べの残りを温めただけの朝食。
 荒野に近い殺風景な道のりを、モンスターと戦いながら進み。
 たまに休憩をして、やはり質素な昼食。
 そしてまた戦いながら、この町へとやって来た。

 エアリスへのプレゼントなど、彼には何も心当たりがない。
 眉間に皺を寄せて考えるクラウドに、エアリスはやわらかな微笑みを向けた。
「ずっと一緒に、いてくれてるでしょ?」
「……え?」
「昨日も今日も、朝起きてから夜寝るまでずっと。クラウド、わたしと一緒にいてくれてるでしょ?」
「それが……プレゼントなのか?」
「うん。何よりも一番嬉しい、プレゼントよ」
 その言葉通り、彼女の笑みは心から嬉しそうだ。

 それでいいなら、とクラウドは思う。
 それだけで、こんなにも嬉しそうに笑ってくれるなら。

「来年も…」
 つい口に出しかけて、クラウドは言葉を切った。
 あまり自分らしくない気がしたから。
「…来年も?」
 しかしエアリスに催促され、小さな声で続きを紡ぐ。
「それでいいなら、同じプレゼントをやるよ」
「…うん。楽しみにしてるね」

 クラウドの言葉に、エアリスが満面の笑みを浮かべる。
 それは逆に、誕生日である彼女からのプレゼントとなった。

この小説は、須多玲湖さまの作品です
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